2018年11月15日
本記事は、American Academy of Actuariesの雑誌Contingenciesに記載されている記事「Model Behavior—How a modern modeler can add value and drive effective business decisions」の翻訳である。この記事は4回に分けての配信予定であり、その第2回である今回は、「Embrace the Black Box」の1節について配信する。
ブラックボックスを受け入れる
難解なモデル化の問題に直面した時、ブラックボックスは便利な言い訳として使われるが、それはよくないことである。過去数十年に渡り、主に計算をコントロールする能力の為に、保険会社の間でいわゆる保険数理用のブラックボックス化しているソフトウェアが使用される場合が多くなっている。この種のコントロールは内部企業モデル化基準、全米保険監督官協会(National Association of Insurance Commissioners)のモデル規制、SOX法(Sarbanes-Oxley)下で発展した監査要件に準拠するためにとりわけ役に立つ。ブラックボックス化しているソフトウェアが柔軟性と透明性を増している一方で、ほとんどの計算は未だ、エンドユーザーにとって未知なままである。多くのモデラーが、この未知さのせいで革新的になれないと言うが、実際にはブラックボックス化しているソフトウェアは大変強力なのである。問題を解く鍵は、組み込まれた機能を活用する際に創造的になることなのである。
ソフトウェアはユーザーの要求に応じてよりカスタマイズできるようになっているのだから、ユーザーは利用できる全ての機能を理解する必要がある。
何よりもまず、ソフトウェアに対する入力と何の計算をしているかを理解することが重要であり、ソフトウェア開発者が作成した説明書にこの情報がよく書かれている。ブラックボックス化された計算が何を行っているのか理解することが難しいときはブラックボックス化していないソフトウェア(例えば、エクセルなど)で計算の再現を行うことから始めるといいだろう。計算が複雑すぎて容易に再現できないときは、統制されたテストをすることで手がかりを得ることができる。つまり、入力値を一つだけ独立に変えていき、出力値の変化を見る方法である。どのように予想していた値とソフトウェアによる出力値とが異なったかが、なぜ計算が予想と異なる振る舞いを見せるのかという事に対してヒントを与えてくれる。例えば、「重要な入力値を変更したにもかかわらず、出力値に何の変化もない」という結果を得たとき、実は入力値は使われていないということかもしれない」ということが真っ先に思いつく。つまり、スイッチやモデルの入力値の配置が間違っているなどの単純なミスがある可能性を意味している。疑問に思うときは開発者に連絡を取ることがソフトウェアの機能に関する単純な質問に対する答えを得る迅速な方法になりうる。
より良いモデル化のためには、まずソフトウェア全体をよく理解することだ。ソフトウェア開発者は絶え間なくモデル化ソフトウェアを改良しているため、ユーザーは時間がある時にトレーニング・セッションに参加し、常に新機能リリースの情報を入手し、ソフトウェアを最新のバージョンに保つ必要がある。ソフトウェアはユーザーの要求に応じてよりカスタマイズできるようになっているので、ユーザーは利用できる全ての機能を理解することも重要である。ひとたびモデラーがソフトウェア全体を十分に把握すれば、革新的なモデル化の「ソリューション」を得る秘訣はクリエイティブとなることである。ユーザーの創造性以外、モデルの創造性の制限はほとんどない。
しかしながら、「ソリューション」が創造的であっても、その「ソリューション」の有効性を十分吟味し、適用可能なすべてのモデル化基準−特に、保険数理基準審査会(Actuarial Standards Board (ASB))によって発布された保険数理実務基準(actuarial standards of practice (ASOPs))−に準拠していることを確認することも重要である。ASBは現在、全実務範囲に対応するモデル化におけるASOPの第四版公開草案を立案している。ASOPに拘束力があるわけではないが、アクチュアリーは公開された草案を再吟味したいと思っており、この新たなASOPの開発と並行してモデルを開発する必要がでてくる。
ブラックボックス化しているソフトウェアの一般的な創造的な最適解の中には、プロセスの自動化やプログラムによって既に定義されている機能の適応外使用(off-label use)などがある。プロセスの自動化にはソフトウェア内および・またはソフトウェア外のいくつかの小さいプロセスを統合することが含まれる。例えば、モデルからの情報はエクセルにエクスポートすることができる。
ここから、オープンソースのプログラミング言語が出力値を得るための操作に使われ、そしてその出力値は利用可能な形でモデル化ソフトにフィードバックされる。ここから認識されるトレードオフは柔軟性と制御性である。次に、既に定義された機能の適応外使用(off-label use)に関しては、レベレッジされる機能を完全に理解することが重要である。大変特殊な目的のためにブラックボックス化しているソフトウェアに機能が追加されることがあるが、必ずしもその機能が他の目的の役に立たないというわけではない。もしある機能が、何の基本的な問題に焦点を当てているかを理解できたなら、その「ソリューション」は同じ原因や構造を根源にもつ他の問題に適応することができる。
次回は、「Model Behavior—How a modern modeler can add value and drive effective business decisions」の第3回を配信予定である。
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