2018年9月27日木曜日

「市場分割」を超えた未来


 
 
2018年9月25日

 
本記事は、アメリカアクチュアリー会(SOA)の雑誌The Actuaryに記載されている記事「Bull’s-eye!: Using targeted products and market segmentation in life insurance to benefit both insurer and customer」の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、その第3回である今回は、「THE FUTURE BEYOND SEGMENTATION」の1節について配信する。

  • 「市場分割」を超えた未来
究極レベルの「市場分割」は、個々人にカスタマイズされた商品や提案といった「個人の分割」に帰着します。「世界に一つだけの自分のコンバースを作る」といった商品は、現在「多くのカスタマイズできる」という商品特徴が組み込まれていますが、今日の販売においては「個人の分割」がより一般的に見受けられます。ビッグデータの時代になると、市場分割を超えて拡大するデータ分析の動きをすでに多くの企業が見せ始めています。それらの企業はもはや単なる人々の集団を基盤とする市場を対象にしておらず、むしろ個人としての人々を対象にしています。例えば、Amazonは個々の顧客の購入履歴を使用して、将来購入すると考えられる商品をおすすめします。データ分析と言われて思い出す他の例を見ると、Netflixも、個人のレベルで同様の分析を行っており、過去の視聴履歴やその動画の評価に基づいてユーザーが楽しめる映画やショーをおすすめしています。

Target(アメリカの大手小売業者)が10代の女の子に赤ちゃんと出産に関する商品のクーポンを送ったことに対して社会的な反発が見られるという、悪い評判として出回ってしまった例があります。女の子の父親は激怒しましたが、のちに高校生の娘が本当に妊娠していたことを知り、謝罪しました。Targetは他の顧客の購買行動を分析し、妊娠していそうな顧客を特定できるであろう購買行動のパターンを個人のレベルで決定することができました。Targetの分析によると、問題となった10代の女の子の購買行動は妊娠が予想される顧客の購買行動と一致していたため、女の子には妊娠した顧客を対象としたクーポンが送られました。

「市場分割」することを超えて個々人のマーケティングをしたり、消費者におすすめ情報を送ったりすることは、データの大きさにとても強く依存します。Amazon、Netflix、Targetなどの企業は多くの顧客購買情報があり、豊富なデータがすでに収集されています。一方、生命保険業界が豊富な内部データを得るには年月がかかりますが、同じように分析をするために外部の情報源を利用してデータを補うことができます。

市場分割という手法を使うことで、生命保険業界は利用可能な内部データと外部の情報源を活用して、顧客のニーズにより的確に対応することができます。より多くの内部データと外部データが利用できるようになり、そういったデータを使用して保険業界がさらに洗練され続けるにつれて、保険業界は他業界の足跡を辿って、「個人の分割」を提供するようになるでしよう。

次回は、「Model Behavior—How a modern modeler can add value and drive effective business decisions」を配信予定である。

注. 本記事の日本語著作権は株式会社ヨシダ・アンド・カンパニーに帰属しており直接のメール会員、当社の教育講座受講生以外の外部へのコピーまたは電子媒体での流出を禁じます。当法人は翻訳の正確性について一切の責任を負いません。

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2018年9月12日水曜日

保険会社と顧客の両方に利益をもたらす、生命保険の対象商品と市場分割の使用について 第2回




2018年9月10日
 
 
 
 本記事は、アメリカアクチュアリー会(SOA)の雑誌The Actuaryに記載されている記事「Bull’s-eye!: Using targeted products and market segmentation in life insurance to benefit both insurer and customer」の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、その第2回である今回は、「BRINGING SEGMENTATION TO THE LIFE INSURANCE INDUSTRY」の1節について配信する。

生命保険業界への「市場分割」の導入

生命保険業界では保険契約や保険契約者に関する多くのデータが蓄積されているため、アクチュアリーも顧客をよりよく理解し、対象を絞ることができます。保険会社が収集した既存の経験則的データは、保険契約者の行動に関した仮説を立てるためにたびたび使用されます。そして、生命保険業界のデータが膨大なるにつれ、予測モデリング手法(predictive modeling)を用いることによって保険契約者の行動に関するより正確な仮説を立てるために、そのデータはますます使用されていきます。

保険契約に関する特徴を備えた予測モデルは、保険契約者の行動をよりよく区別するための仮説を立てる時の第一歩ですが、保険契約の特徴だけでは保険契約者の行動までは見えません。ここでビッグデータの出番です。第三者のデータを売買する業者から入手可能な保険契約者に関する追加データを取得することによって保険契約者の行動を予測することを超えて、保険契約者の購買動機を理解し始めることができます。このように顧客をよりよく理解することで、保険会社は、特定の顧客のニーズにより対象を絞った適切な保険商品を開発できるようになります。例えば、直ちに資金が必要な顧客は、将来的により多くの資金が得られる可能性がある特徴の商品よりも、今すぐ資金を調達できる可能性がある特徴の商品により価値を置く傾向があります。

他の予測分析と同様に、この分析も第一歩はデータを集めることです。保険会社の場合は、死亡保険金額や、死亡率経験値、保険契約者の人口統計、そして販売経路などの内部データを収集することから始めます。次は内部データを増やすためにできるだけ多くの追加データを得ることです。理想的には、職業や、消費状況、ローン状況、そして信用度などの保険契約者の全体的な財務状況を把握するための情報です。これらの主な「市場分割」の仕方は以下の通りです。

・地理(人口密度、気候)
・人口統計(年齢、家族構成、ライフステージ、性別、収入、教育)
・心理的属性(生活様式、人格)
・行動(購買、売買、顧客だった期間)

これらのデータはクラスター分析アルゴリズムを使用して保険契約者を「市場分割」するため使われます。

これによって分けられた保険契約者の「市場分割」(グループ)は、状況や購買動機が共有されているため同じような振る舞いをする可能性が高い保険契約者として同一視します。商品開発の対象として有益と考えられる「市場分割」は、以下のものです。

・測定可能性(Measurable). 規模や、購買力およびその特性を測ることができる
・有力性(Substantial). 規模が十分大きく、利益になりうる
・アクセス可能性(Accessible). 効率的に保険契約者に届き、提供できる
・弁別可能性(Differentiable). 根本的に区別され、異なる行動をする
・行動可能性(Actionable). 効率的に保険契約者を引き付け、提供できる

例えば、財政面の信用度が低く、またあるいは住宅ローンのLTV割合(Loan to Value ratio, 不動産投資信託の総資産に占める負債の割合)の高い「市場分割」は、資金を必要としており、それが契約に関しての決定にも影響を及ぼす可能性があります。予測モデルを各保険契約者の「市場分割」に使用することで、保険契約者が関心のある行動を予測することができます。各「市場分割」に使われるモデル間に違いがあることが予想されるため、その違いによって、各「市場分割」がどのように行動を決定しているか分かるようになります。

各「市場分割」がどのように行動を決定しているかについて理解を深めることで、これらの保険契約者とそのニーズについてより多くのことを理解し、そして将来彼らがどう行動するかについてより良い仮説を立てることができます。さらにこれを踏まえて、これらの予測モデルの仮説は各「市場分割」の収益性を決定するためのキャッシュ・フロー予測に使用することができます。計算された収益性は、最終損益を高めるために商品が販売される「市場分割」を決定することに使われます。

保険契約者の行動への深い理解は、収益性を高めるだけでなく、「市場分割」のニーズに対しより適切に対象を絞った新商品を開発することにも使えます。例えば、分析によって、ニーズに合ってない商品を購入していると考えられる保険契約者の「市場分割」を特定できた場合、この情報から彼らに対象を絞って、彼らが考えるニーズにより合った新しい商品または異なる商品を作ることができます。

多くの生命保険会社は昔から、お互いに全く違った行動を起こす可能性がある保険契約者を区別することができないという重大な問題に直面していました。これにより新商品の販売と開発において全体的に非効率性と課題が生じていました。これらの非効率性を緩和するために、市場分割は既に多くの他業界で使用されています。「市場分割」することにより、企業の収益性を向上させるだけでなく、同時に、独自のニーズに基づいた顧客により高い価値のある商品を提供することが出来るようになります。

「市場分割」することは生命保険の商品開発と販売の次の一歩とみていますが、これが最高の状態となることは無いでしょう。データと技術が進化し続けるにつれて、私達は今いる場所を超えて、将来進むであろう場所へ前進し続けなければなりません。

次回は、同記事「Bull’s-eye!: Using targeted products and market segmentation in life insurance to benefit both insurer and customer」の第3回を配信予定である。

注. 本記事の日本語著作権は株式会社ヨシダ・アンド・カンパニーに帰属しており直接のメール会員、当社の教育講座受講生以外の外部へのコピーまたは電子媒体での流出を禁じます。当法人は翻訳の正確性について一切の責任を負いません。
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2018年9月1日土曜日

保険会社と顧客の両方に利益をもたらす、生命保険の対象商品と市場分割の使用について 第一回

 
 
2018年9月1日
 
 
本記事は、アメリカアクチュアリー会(SOA)の雑誌The Actuaryに記載されている記事「Bull’s-eye!: Using targeted products and market segmentation in life insurance to benefit both insurer and customer」の翻訳である。この記事は3回に分けての配信予定であり、その第1回である今回は、「Segmentation at Work」の1節について配信する。

保険会社と顧客の両方に利益をもたらす、生命保険の対象商品(Targeted Products)と市場分割(Market Segmentation)の使用について

市場分割(Market Segmentation)は決して新しいトピックではなく、特に革新的なトピックでもありません。むしろ、「市場分割」(Segmentation)は1960年代初めからマーケティング研究の重要なマーケティング概念であり、焦点と考えられていました。市場は不均一で雑多であるため、全ての顧客に大きな魅力をもたらす唯一の商品を開発することはほとんど不可能です。たとえそのような商品が作られたとしても、あるいは商品が広く市場に出回っていても、異なる顧客はその商品に異なる動機または用途を持つ可能性が高いです。
他業界での「市場分割」
生命保険業界の「市場分割」について掘り下げる前に、多くの業界で普及してきた「市場分割」の使い方からヒントを得ることができます。1920年代にゼネラルモーターズは市場分割戦略の有名な例である「あらゆる購買層と目的に合った車(a car for every purse and purpose)」を生産することにより、フォードを自動車販売で追い越しました。より最近では、クレジットカード業界が顧客の過去の信用のある行動傾向に基づいて顧客を「市場分割」し、対象となる勧誘メッセージや商品を送ったり、配当やキャッシュバックをしたりしています。

保険業界に近い業界でも、すでに機能している「市場分割」の例があります。例えば自動車保険会社はニッチ市場(特定のニーズを持つ規模の小さい市場)に対応するために進化しました。例を挙げるとUSAA(United Services Automobile Association)は軍とその家族に保険を提供し、Progressive(保険会社名)は事故率が高いドライバーに保険を提供します。これらの特定の市場にサービスを提供することで、企業は選ばれた「市場分割」に向けて販売するので、販売効率と顧客満足度を向上させることができ、そういった顧客のニーズに合った商品を提供することができます。

また生命保険業界でも既に「市場分割」するようなことは見受けられています。以前は、クラスター分析が保険数理的なモデリングの最前線に持ち込まれており、特に保有契約のデータ圧縮に使用されています。このクラスター分析の考え方は、根本的には市場分割と同じものです。クラスター分析の手順は、グループを作り(この場合は保有契約のグループ)、契約に関する特徴を利用して似通った契約のグループが作り出されます。含まれている契約を特徴付ける単一のレコードが、各々の「市場分割」(グループ)を代表します。これにより精度を損なうことなく、より少ない数のレコードでプロジェクション(収支予測)を得られることができます。このクラスター分析の目的は時間のかかるプロジェクションでの実行時間を短縮することですが、ビジネスの顧客側にも同様のアルゴリズムを取ることができます。

次回は、同記事「Bull’s-eye!: Using targeted products and market segmentation in life insurance to benefit both insurer and customer」の第2回を配信予定である。

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